ピアノ教則本

楽器店に行くと、作曲家別の楽譜コーナーとは別に「ピアノ教則本」のコーナーがあります。近年この「ピアノ教則本」コーナーの充実ぶりは凄いです。沢山ありすぎて、いったい何がスタンダードなのか分からなくなっています。今では戦前からの確固たる定番だったバイエルも若い世代からしだいに敬遠されるようになり、ピアノ初心者は皆これ一冊!の「バイエル神話」は崩壊しつつあります。また指の基礎練習ハノンを、順にページをめくって進める指導者も少ないでしょう。これに変わり、アメリカ系のイラストだらけの数冊セット教材に加え、日本の大手出版社からもその真似事のようなものが次々に登場し、その他大人のピアノシリーズも乱入して楽譜コーナーの大半はテカテカしたカラフル教本で占められています。僕はとても批判的な性格なのでバイエル、ハノンは明治の遺物であり、その他テカテカ教本セットは商業主義の真骨頂だと思っています。もちろんテカテカ教本の中にも感心すべき教材はありますが。

 

ドイツをはじめヨーロッパの楽譜屋は、あくまで楽譜屋であり、楽器別、作曲家別の楽譜が所狭しと並んでいます。他には少しの教材と、レジ横に音符絵柄の鉛筆があるくらいで、理解に苦しむレッスン便利アイテムや、発表会グッツも見た事がありませんでした。なぜ日本ではこれほどまでにピアノ教材が溢れているのでしょう?原因の一つはピアノ指導者にあるような気がします。まずバイエル、ハノン系の教材。これは大半の指導者が「自分がコレで習ったから」という理由で、なんの疑いもなく生徒にもやらせてきた悪しき習慣です。コレしかないならともかく、いくらでも素材はあったはずです。次に近年の教本。とくに初歩段階の教材は教える側にはありがたいです。毎回レッスンの内容を練ったりその場で考えたりしなくても、ページをめくっていけば、ある程度ちゃんとしたカリキュラムが組めるからです。ピアノを少し弾ける人ならば、教本を手に取って簡単に指導者になる事ができます。まさにピアノレッスンの便利グッツ。便利な反面弊害は大きい。「ピアノを何年も習った事があるのに、今では自分の楽しみのためにすら弾かない」という人が多いです。これは、早い段階で本物の曲に出会えなかったから、レッスンの現場で一緒に考えたり、音楽を共感した経験が乏しいからではないか。素材選びは大変重要です。教則本というのは新旧ともに疑問点を多く含んでいます。大事なのは繰り返し創造すること。人の成長、特に子供は教則通りに行かないことがほとんどです。音楽とピアノ演奏の原理を理解して、しっかりと柔軟にレッスンができれば、子供らしく魅力的な演奏になると思います。